森林火災発生時の東南アジアの光環境マップの作成と陸域植生のCO2吸収量の推定
地球環境の変化によって大気の放射環境(エアロゾルや雲)が変化すると,地表に降り注ぐ太陽放射の直達成分と散乱成分の割合や,散乱光の天空輝度分布の変化を通じて(図1),陸上植生の光合成活動,さらには全球の二酸化炭素収支(CO2)に影響を及ぼす。人為的影響を含む数百年規模の地球環境変動で,どの程度,光環境の変化とそれに伴う陸上植生の光合成活動に関係性があるかについては,未知な部分が多い。
近年,東南アジア地域では頻発する森林火災や野焼きの影響により,大量の煙エアロゾルが大気を覆い,長期間日射を減少させている。特に植生が光合成活動に利用する400-700nmの波長帯の光(PAR)の減少は特に激しい。この光の変化が東南アジア全域の植生のCO2吸収量に与える影響を衛星データで調べた。 まず,東南アジア全域の煙発生時のPARの広域マッピング法を開発した。この方法では,衛星データから得られたエアロゾル指数データを簡易な大気放射伝達計算式に入力することで,図2のようなPARの広域分布推定を行った。この結果,特に煙の影響が深刻だった1997年の秋には,インドネシア・カリマンタン島の50%以上の地域では,二ヶ月以上にわたってPARが通常年の50%以下になる等の影響があったことを明らかにした。
さらに,図2の様な推定値と植生のCO2吸収量推定モデルを用いてPARの減少とCO2吸収量の関係について東南アジア全域で推定を行った(図3)。この結果,1997年には深刻な量の煙の発生によってPARの減少により,植生のCO2吸収量が通常年と比較して東南アジア全域で3.5%(0.12PgC)減少することがわかった。この減少量は,ENSOサイクルに伴う気候の年々変化(気温・降雨量)によるCO2吸収量の変化幅より大きく,この地域のCO2吸収量に大きな影響を及ぼすことが明らかとなった。
衛星リモートセンシングデータと森林内の光環境を結びつける 三次元放射伝達モデルの開発
様々な大気環境下での不均質な植生内部の光環境を評価する為には三次元放射伝達モデルが必要である。また,衛星データの解析は,分光反射率と植生構造を太陽光の軌跡を物理的に調べて両者を結びつける作業であり,この解析にも高性能な三次元放射伝達モデルが必要である。本研究では,これらの要求を満たすモデルを開発した。
本研究で構築したモデルは,樹冠上端や大気上端での反射率の計算の他に,様々な大気環境下での植生内部の吸収PARの3次元分布や植生上端,林床での下向き放射照度の計算を行うことができる。 例えば図4は球で近似した樹木内部での3次元吸収PAR分布計算結果の鉛直スライス図である。樹冠内部の葉面積密度や大気からの光の入射条件の違いによる吸収PARの分布や強度変化が評価できる。また,図5は赤と近赤外波長帯の反射率である。本モデルは大気上端と樹冠上端での衛星観測反射率を同時にシミュレーションできるため,陸面植生の反射率への感度を調べるのと同時に,大気の影響も調べることができる。
シベリアのカラマツ林の葉面積指数の推定とその検証
カラマツ林の疎な森林は東シベリアを広く分布し,シベリアの森林の約50%の面積を有する落葉性の針葉樹である。様々な気候予測研究や過去の気候データからシベリアの異常高温化が指摘されており,地球温暖化に伴う,カラマツ林の葉面積指数*の変化を高精度にモニタリングする必要がある。本研究では,ヤクーツク近郊のカラマツ林で観測された葉面積指数データや航空機で観測された分光反射率情報をもとに,シベリア全域のカラマツの葉面積指数を高精度に推定する衛星データ解析アルゴリズムを開発した。現在,開発した葉面積推定法や葉面積指数マップの精度の検証を進めているところである。
*葉面積指数: 森林や草原などにおける単位面積辺りの葉の片面の総面積。広域で生態系の二酸化炭素や水の交換量を広域推定する際の重要な生態系パラメータ